幽霊姫は止まれない!
 そんな想像、いや妄想に意識を奪われていた時、ギイィ、と重厚な音が響いた。
 ドキリと肩を跳ねさせ、そっと扉の方へと視線を向ける。そこには王族特有のピンクの髪を短く切った王太子殿下と、その護衛騎士が六人、そして殿下の後をスッと正した背で真っ直ぐ前だけを見据えて歩く少し小柄な女性。

 その女性は、王太子殿下と同じピンクの長い髪をふわりと揺らし、真っすぐ見据えるアメジストのような紫の瞳は陽の光を反射しキラキラと輝かせていた。

(エーヴァファリン殿下!)

 想像通り、いや想像以上に聡明で落ち着き歩く彼女は女神のようで、そして今日ここに集められた百人ほどの騎士は全員が息を呑んでいた。
 もちろん、俺も。

 前を歩く兄である王太子の背を見据えながら歩いていた彼女にただ見惚れていた時、ふと彼女の視線が俺の方を見たように感じドクンと胸を高鳴らせる。

(まさか、そんな)
 俺のことを覚えているわけない。というかそもそも俺なんかを見たわけじゃない。
 早くなる鼓動を無視し、必死にそう言い聞かせていたのだが、近くまで歩いてきた彼女はそんな俺の動揺を見抜くようににこりと笑みを浮かべた。
< 468 / 570 >

この作品をシェア

pagetop