幽霊姫は止まれない!
「決めましたわ、お兄様」
「エヴァ?」
「オスキャル・スワルドン。私は貴方を選びます」

 その場は一気にざわついたが、俺には彼女の凛としたその声しか聞こえなかった。
 真っすぐ兄の背を見据えていた彼女の紫の瞳が、今は俺を真っすぐ射貫くように見つめている。
 その瞬間、幼い頃の映像が駆け抜けたような錯覚と、自然と頭を下げたくなる神々しさを感じた俺は、どうしてだろうか。何故か泣きたくなったのだ。

 ──忘れたことなど一度もない。
 彼女は俺の特別だから。

「──オスキャル・スワルドンか。若すぎる気はするが、その実力は確かだな。いいだろう、任命はエヴァに一任しているんだ。他ふたりはどうする?」
 ふむ、と一瞬考え込んだ王太子殿下はすぐに顔をあげ、彼女に向って頷きながらそう告げる。
 
 だが、そんな王太子殿下に対し彼女はゆっくり首を左右に振った。

「彼だけで構いません」
「えっ」
「な、エヴァ、流石に護衛がひとりというのは」

 驚きのあまり思わず声を漏らした俺が慌てて口を閉じる。
 今、俺だけでいいって言ったのか?

 護衛騎士は三人の予定だった。
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