幽霊姫は止まれない!
 人並みに体力がついた頃には、その姿を誰も知らない忘れられた亡霊という揶揄を込めて『幽霊姫』だなんてあだ名で呼ばれるようになっており、それは十九歳になった今でも継続し蔑まれている。

「エヴァ様……」
「そんな顔しないで、オスキャル。貴方はいつものように私を見逃してくれればいいの。さぁ、離して?」
「職務放棄した記憶はありません」
「ちょっとくらいいいじゃないっ! 離してぇ! 新作スイーツを堪能したらすぐ帰ってくるからぁ!」
「どれだけ騒いでも絆されませんよ! すぐ帰るなら出かけずに今帰るんです! スイーツは王城のシェフに頼みましょう!」
「だって私、幽霊姫なのよ!? 誰も私の顔を知らないの! 外へ遊びに行き放題じゃない!」
「そのあだ名を払拭する努力をして貰えますかねッ」
「おふたりさん、そろそろその穴、埋めていいですかねぇ……」

 そうやって相変わらずきゃいきゃいと騒ぐ私たちを、植え直す予定で持った来た鉢を抱えた庭師が呆れたように眺めていた。

 ――これは、幽霊姫と呼ばれる悲劇の末姫と、そんな彼女に振り回されるちょっぴり不憫な護衛騎士のハチャメチャな日常の軌跡である。
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