幽霊姫は止まれない!
 夫人が結婚したのは私が生まれて何年もしてからだったので、ノルベルト公爵の姉である母との接点が少なかったのも理由のひとつだろう。
 もし先に母と夫人が親しくしていたら、姉のように慕っていたのに、と彼女から罵倒されてもおかしくはなかった。

(それにしても、陰口をたたく人も少ないわね)
 私がこういった場に出るのは、先日の王城で開催された夜会を含め二回目。
 まだまだ露出の少ない私を嫌悪する人は多く、蔑ろにされていると思っている人だって多い。そんな状況で、私に対して誰も陰口をたたかないという状況を怪訝に思うが、今はわざとらしく私の前を去ったノルベルト公爵の方が重要だ。

「サイラス様、私、行ってきます」
 あれだけ会うのが怖かったくせに、目の前から逃げられると追いたくなるのはなぜなのか。

(もしかしたら追いかけたことを後悔するかもしれないけれど)
 それでも、今はどうして去るという選択肢を選んだのかが気になったのだ。

 会場ホールの真ん中であれば、サイラスを置いて行っても問題はないだろう。
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