幽霊姫は止まれない!
 あまりいい意味のあだ名ではない、というか悪意満載のあだ名であるが、幽霊姫だからこそ今回の噂が流れたところで忘れられた亡霊が誰と恋仲であろうともみんな気にはしないだろう。もしろ何か言われるのはオスキャルの方だろうし、そう考えればこのあだ名も案外悪くないのかもしれない。
「入れ」
「はい」
 そんなことを漠然と考えていると、中から声がしたので返事をしてから執務室の中へと足を踏み入れた。中には父の護衛が待機しているだろうし、側近もいるだろう。もちろん窓の外や城内も騎士たちが巡回し警備にあたってくれているので、残念ながらいくら私の専属護衛だとしてもオスキャルが付き添えるのはここまでだった。

 行ってくる、という思いを込めてオスキャルの方を振り返ると、真剣な表情で私を見つめる彼と目が合った。私を案じていることが表情だけで伝わり、くすりと笑った私がしっかりと頷く。すると今度が慌てたように顔を左右に振ったので、もう一度大丈夫だという意味を込めてコクリと頷いた。
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