無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
「ギリギリって……そんな、大袈裟」
自覚があるだけに居心地が悪く、美月は視線を泳がせた。
たしかに小松に越してきた時は、念願だったイギリス赴任をあきらめたうえに本社でも居場所を失い、自分にはもう生きていく場所はないのだと、無駄に自分
を追い込んでいた。
今思えば産後のホルモンの変化に身体がうまく対応できず、精神的に不安定になっていたのかもしれないが、当時は日々生きるだけで精一杯で、そこまで頭が回らなかった。
日葉里が言うように、ギリギリというのは大袈裟な話でもないのだ。
「まあ、人生ってなるようになるものよ。私なんて、公認会計士として一生バリバリ働くつもりが、温泉旅館の女将修行の真っ最中。だけどそれも楽しいし、気
楽に考えなきゃ」
「お姉ちゃんらしい」
日葉里の飄々とした言葉に、美月は口元を緩めた。
五歳年上の彼女は美月にとって憧れの存在。
子どもの頃から目標にしてきた。
美月が小松への異動をふたつ返事で受け入れた理由のひとつは、日葉里の存在があってこそ。
そうでなければなんの縁もない土地に蓮人とふたりで赴く勇気は持てなかったかもしれない。
「そうだ。今日はもう旅館には戻らないから、れん君のお迎え行かせてもらっていい?」
日葉里が軽く手を叩き、美月を見上げた。
「え、いいの?」
美月は遠慮がちに答えた。
これまで何度か蓮人のお迎えを日葉里にお願いしたことがある。
ほかにも保育園が休みの日に出勤しなければならない時に何度も日葉里に助けてもらっているのだ。
「いいわよ。仕事、忙しいんでしょ?」
「う、うん……」
工務店との打ち合せの後にはバイト希望の大学生の面接があり、新しいメニューの打ち合せも予定している。
「でも、お姉ちゃんも忙しいのに」
旅館の手伝いとふたりの小学生の娘の世話と家事。