無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
今も店内には明日を心待ちにしているファンたちの弾む声が飛び交っている。

「お待たせしました。シフォンケーキです」

バイトたちが、できあがったシフォンケーキを次々テーブルに運んでいる。

シフォンケーキの今日の売上げは普段の五倍以上。厨房には焼き上がったケーキの甘い匂いが絶えず漂っている。

「写真で見たまんま。愛嬌があるイーグルだね」

「戦闘機なのに、かわいすぎて笑っちゃう」

「今年もこれを食べられる幸せ。来年もちゃんとここに戻ってこられるように一年仕事をがんばろう」

店のあちこちから聞こえる声は楽しそうで、わいわい盛り上がっている。

美月はカウンターの中でドリンクを作りながらその声に耳を傾けた。

昨年もかなりの数のシフォンケーキが航空祭前日と当日に売れたと聞いているが、予想以上の人気に驚いている。

手作りのシフォンケーキはもともとおいしいと評判で注文が多かったが、昨年バイトのひとりが思いつきでシフォンケーキのプレートにチョコペンでキャラク
ター化された鷲の絵を描いたところかわいいと話題になり、さらに人気が上がった。

小松基地には別名イーグルと呼ばれるF―15戦闘機が配備されていることにちなんでのことたが、何人もの客がSNSに投稿したのをきっかけに話題とな
り、それを目当てにした客が多く来店するようになった。

それから一年、今ではバイト全員が絵を描けるようになり客の期待に応えている。

「シフォンケーキ、完売です」

厨房からの声に、美月やバイトたちが顔を見合わせホッと息をつく。
 
店の外にはシフォンケーキを目当てにわざわざ来てくれた客が並んでいて申し訳ないが、今日の分の材料が底を突いたので仕方がない。
 
明日もかなりの客が訪れるはずだ。航空自衛隊のファンの熱意に驚きつつ、美月は心地よい疲労を感じた。

閉店まであと三時間。もうひと息だ。

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