無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
「有坂さん、明日はすみません。忙しいのにお休みをもらって。本当は休みの有坂さんも店に出るって聞いて……」

バイトの女の子の声に、美月は振り向いた。

「こんなに忙しくなるとは思ってなくて、すみません」

「え、いいのに。気にしないで」

美月は慌てて首を横に振る。

頭を下げている彼女は、明日の航空祭に行くために休みを取っているのだ。

バイトを始めてまだ三カ月と日が浅く、航空祭の影響で店がここまで忙しくなるとは想像していなかったようだ。

カフェの経営を担当している美月は基本的には土曜日と日曜日は休みだが、明日はそうも言っていられず出勤する予定でいる。

「私も正直びっくりしてる。なんだか前夜祭みたいよね」

美月は苦笑し、肩をすくめた。

「明日は他のバイトの子たちが十分シフトに入ってくれているから気にしなくていいわよ」

申し訳なさそうに立っているのが気の毒で、美月は明るく声をかけた。

「せっかくだし、楽しんできて」

「ありがとうございます。実はブルーインパルスを見るのも初めてで、楽しみなんです」

「ブルーインパルス……」

美月はふと碧人を思い出した。

ラストフライトを最後にブルーインパルスのパイロットを紹介するホームページから碧人の顔写真が消え、今どの基地にいるのかもわからない。

高校二年生になる直前、碧人が防衛大学校に合格したと人づてに聞いて以来、彼の無事を祈りドルフィンライダーになるという夢が叶うよう心の中で応援を続けてきた。

折に触れ航空自衛隊のホームページでブルーインパルスの情報を集めつつ、パイロットの紹介ページに碧人の姿がないかと何度も確認した。

そしてようやく碧人の顔写真が掲載されているのを見た時は、涙がこぼれるのを我慢できないほどうれしかった。

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