無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
美月はつかの間ぼんやりした後、ホットケーキの注文を思い出し慌てて厨房の奥に向かった。 

途中「れん君おはよー」という常連たちの優しい声が次々と耳に届いて、口もとが緩み、胸の奥に熱いものが込み上げてくるのを我慢できなかった。



「有坂お疲れ。そろそろあがっていいぞ」

「もうそんな時間ですか?」

岡崎の声に時計を見ると、十三時を回っている。

「今日は無理をさせたみたいで、ごめんな」

「いえ、それは全然。仕事ですから」

美月はテーブルを片付けていた手を止め、首を横に振る。

「それに蓮人を連れてきてすみません。お客様にも気を使ってもらって申し訳ないです」
 
結局、蓮人は常連たちが順に面倒をみてくれ、美月が様子を見に行ったのもほんの数回。

忙しくてつい好意に甘えてしまった。

「それにしても、れん君いい子だな。全然ぐずらないし常連さんたちもメロメロ。俺もあのかわいい笑顔にはキュンとした」

「キュンって。ふふっ。それは岡崎さんの恋人とか、大切な人に言ってあげてください」

岡崎の冗談に、美月はクスクス笑う。

「いや、恋人はいないし、大切な人は――」

「そういえば、絵本、ありがとうございました」

気を使ってくれたのか、岡崎は最近人気の絵本を蓮人にプレゼントしてくれたのだ。

「いや、姪っ子が気に入ってるから、れん君にもどうかと思ったんだ」

岡崎は照れくさそうに答える。

「すごく気に入ってました。佐々木さんが読み聞かせしてくれて大喜びだったし」

「そうか。いいのがあったらまた用意しておくよ」

「これ以上気を使わないでください。お店に連れてこられるだけで十分です」

これ以上気を使わせたり面倒をかけたりするのは申し訳ない。とはいえこの先も蓮人を連れて出勤する日は必ずあるはずで、そのあたりがもどかしくもある。

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