無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
「それは気にするな。お客さんも喜んでるし。れん君の笑顔は癒やしだよな」

「癒やし……」

美月はトレイに客が食べ終えた食器をまとめながら、バイトの男の子と一緒にスケッチブックに絵を描いている蓮人を見つめた。

「そうなんですよね。どの親もそうだと思うんですけど、蓮人の笑顔を見ると幸せな気持ちになっちゃうし。保育園にお迎えに行くと一番かわいく見えるし。親
バカなんです」

日に日に碧人に似てきた蓮人は、子どもながらに目鼻立ちが整っていて保育士からも将来が楽しみだとよく言われる。

女の子からの人気が抜群だった、碧人の遺伝子を引き継いでいると感じる瞬間だ。

「有坂?」

「あ、あの。いえ」

美月はうつむいていた顔を上げ、慌てて笑顔をつくる。

高校時代、その人気のおかげで碧人と別れたことを、思い出してしまった。

碧人と付き合い始めた直後から始まった様々な嫌がらせ。それが度を超したせいで、美月はバレリーナになるという夢をあきらめ、碧人との付き合いを終わらせ
たのだ。

「どうかしたのか?」

「いえ、なんでもないんです。蓮人がお利口さんにしていてくれてホッとしただけです」

美月は軽い口調を意識して言葉を重ねた。

今もあの頃を思い出すと、胸の奥がざわめいて自分の決断が正しかったのかどうかわからなくなる。

「航空祭からずっと忙しくて、疲れてるんじゃないか? ここはいいからもう帰れ」

「いえ、大丈夫です。でも、時間なので、これを片付けたらあがります」

いまさらどうにもならない過去に落ち込んでも仕方がない。

美月は気持ちを切り替えテーブルを布巾で拭き上げた。

「いらっしゃいませ」

バイトの声に振り返ると、三人の男性が店に入ってきた。長身ですっと背筋が伸びた凜々しい男性たちだ。初めての来店なのか、全員店に足を踏み入れた途端
店内を興味深そうに見回している。

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