無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
そうだったと思い出し、美月は視線を逸らした。偶然再会した時にイギリス赴任が決まったと伝えたのだ。

それから三年。碧人は美月が赴任を終えて帰国したと納得しているようだ。

もともと共通の知り合いがいないので、美月の事情を碧人が知る術はない。

美月がイギリス赴任をあきらめたことも蓮人を出産したことも、知らなくて当然だ。

美月は後ろめたさはあるものの、碧人の誤解を利用させてもらうことにした。

「そうなんです。私――」

「ママー、できたー」

美月が口を開いたと同時に、蓮人のご機嫌な声が店内に響いた。

「あ……」

ハッとし顔を向けると、スケッチブックを手に蓮人が美月のもとに駆け寄ってきた。

「かぼちゃ描けた。上手?」

蓮人は美月にスケッチブックを広げて見せ、褒めて褒めてとばかりににぱーっと笑っている。

「えっと……う、うん。すごく上手に描けてる」

美月はスケッチブックを受け取ると、そっと碧人に背を向け蓮人の姿が見えないように隠した。

「これ、ドラクラ」

蓮人は誇らしげにそう言って、スケッチブックを指差す。

見ると黒く塗りつぶされている物体があるが、これがドラクラ、ではなくドラキュラのようだ。

「これ、ママとぼくが――」

「ママ?」

碧人のハッとした声が聞こえ、美月はとっさに膝をつき蓮人を抱きしめた。

「それは、あの、違うの」

もしも蓮人の顔を見たら、自分の子どもだと気づくかもしれない。

美月は混乱し、碧人に背を向けたまま蓮人を強く抱きしめた。

「ママ?」

蓮人は一瞬驚いたようだったが、長時間美月の仕事が終わるのを待っていて寂しかったのか、甘えるようにしがみついてきた。

美月の胸に頰を寄せ、存在を確かめるようにスリスリしている。

「蓮くん……」

温かく小さな身体が愛おしくてたまらない。

「ママ」

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