パパになった航空自衛官は強がり双子ママに一途な愛をわからせたい
「だが、守りたいものが変わることだってある」

 伊澄は真剣な顔をして、楠木を真っ直ぐに見た。それでも、彼女は怯まない。

「あなたは惑わされているだけです。あんな人より、仕事の内容もつらさも、過酷さも知ってる私の方が、あなたの恋人にふさわしいと思いませんか? 私と付き合えば、パイロットを辞めるなんて悩む必要もないんですよ? あんな人のこと忘れて、私と付き合ってくださいよ、伊澄さん!」

 彼女の声は、まるで噛みつくような悲鳴だ。だけど伊澄には、楠木を恋人にするなんて考えられない。
 伊澄の胸にいるのは、たったひとり、千愛里だけなのだ。

「俺をそう呼んでいいのは、千愛里だけだ」

 伊澄のそう言う顔は険しい。楠木は不服そうに唇を尖らせたが、その瞳に涙をためていた。

 伊澄ははっとして表情を和らげた。だけど、彼女の恋心には応えられない。きちんと誠実に向き合うべきだと思った。

「確かに楠木は、戦闘機パイロットの仕事の内容もつらさも、過酷さも全部知ってる。だから、安心して俺たち(・・)は戦闘機に乗ることができるんだ」

 伊澄は王子様然とした笑みを浮かべ、他の隊員に接するのと同じように言葉を並べた。
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