シンママ派遣社員とITコンサルの美味しい関係
第十一話「お礼の食事」
打ち上げが終わった翌週月曜日の昼休み、美咲がデスクでメールチェックをしていると、スマホが振動した。
画面を見ると、瀬尾からのメッセージだった。
「プロジェクト、お疲れさまでした。佐伯さんのおかげでスムーズに進められました。もし迷惑でなければ、お礼に食事を作りたいのですが……いかがですか?」
思わず画面を見つめる。
「お礼に食事」なんて、仕事で関わった相手から言われたことなんてなかった。
――どうしよう。
断るべきか、とも思った。
でも、瀬尾のことを思い返すと、打ち上げのときに言われた「佐伯さんも支援してくれたのに、残念です」という言葉が頭をよぎる。
迷いながら返信を打った。
「お気持ちは嬉しいですが……私、一人ではなく息子がいるので」
すぐに瀬尾から返事が来る。
「もちろん、息子さんも一緒にどうぞ。息子さんにも食べてもらえたら嬉しいので」
――そこまで言われると、断る理由もないわね。
美咲は少しだけためらったが、結局、「では、お言葉に甘えます」とメッセージを送った。
◇◇
週末、瀬尾のマンション
美咲は大翔の手を引きながら、マンションのエントランスでインターホンを押した。
すぐに瀬尾の落ち着いた声が返ってくる。
「どうぞ」
部屋に入ると、シンプルで整然とした室内にほんのりといい香りが漂っていた。
「おじゃまします」
「いらっしゃい」
「こんにちは!」
「僕、名前は?」
「大翔!」
大翔は人見知りすることなく、興味津々に部屋の中を見渡している。
「いい匂い! 何作ってるの?」
「ローストポークと、あとサラダとスープもあるよ」
「わぁ、お肉!」
大翔は目を輝かせ、美咲も驚いた。
「そんな本格的なものを?」
「せっかくなので。低温調理だから、きっと柔らかいですよ」
キッチンのカウンターには、彩りよく並べられた料理がすでに準備されていた。
料理好きとは聞いていたけれど、ここまでとは……と美咲は感心する。
瀬尾がテーブルをセットしながら、大翔に尋ねた。
「お肉、好き?」
「うん! いっぱい食べる!」
「じゃあ、特別に大盛りにしようか」
「やったー!」
そんなやり取りを見て、美咲はふっと笑った。
仕事ではクールで効率重視の瀬尾が、子どもにこんなふうに接するとは思わなかった。
「佐伯さんも、どうぞ座ってください」
「ありがとうございます。いただきます」
美咲がフォークを入れると、肉は驚くほど柔らかく、口に入れた瞬間、じゅわっと旨味が広がった。
「……おいしい」
思わず声が漏れる。
「よかった」
瀬尾は淡々としているが、どこか満足そうだった。
大翔も次々と料理を口に運び、「お兄さんのご飯、おいしい!」と何度も言っていた。
その言葉に瀬尾が小さく笑うのを見て、美咲は少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
――自分以外の大人が、息子に料理を作ってくれるのって……こんな感覚なんだ
夫と離婚してから、ずっと美咲一人で大翔を育ててきた。
もちろん、それが当たり前で、特に寂しいとも思わなかった。
でも今、大翔が嬉しそうに「おいしい!」と言って食べる姿を見て、美咲は少しだけ、普段とは違う気持ちになった。
食事が終わる頃、瀬尾が何気なく言った。
「もし何かあれば、いつでも連絡してください」
「え?」
「ほら、料理のことでも、大翔くんのことでも」
美咲は驚いたが、瀬尾の表情はいつも通り淡々としている。
「……ありがとう」
その言葉を受け入れることに、なぜか抵抗はなかった。
画面を見ると、瀬尾からのメッセージだった。
「プロジェクト、お疲れさまでした。佐伯さんのおかげでスムーズに進められました。もし迷惑でなければ、お礼に食事を作りたいのですが……いかがですか?」
思わず画面を見つめる。
「お礼に食事」なんて、仕事で関わった相手から言われたことなんてなかった。
――どうしよう。
断るべきか、とも思った。
でも、瀬尾のことを思い返すと、打ち上げのときに言われた「佐伯さんも支援してくれたのに、残念です」という言葉が頭をよぎる。
迷いながら返信を打った。
「お気持ちは嬉しいですが……私、一人ではなく息子がいるので」
すぐに瀬尾から返事が来る。
「もちろん、息子さんも一緒にどうぞ。息子さんにも食べてもらえたら嬉しいので」
――そこまで言われると、断る理由もないわね。
美咲は少しだけためらったが、結局、「では、お言葉に甘えます」とメッセージを送った。
◇◇
週末、瀬尾のマンション
美咲は大翔の手を引きながら、マンションのエントランスでインターホンを押した。
すぐに瀬尾の落ち着いた声が返ってくる。
「どうぞ」
部屋に入ると、シンプルで整然とした室内にほんのりといい香りが漂っていた。
「おじゃまします」
「いらっしゃい」
「こんにちは!」
「僕、名前は?」
「大翔!」
大翔は人見知りすることなく、興味津々に部屋の中を見渡している。
「いい匂い! 何作ってるの?」
「ローストポークと、あとサラダとスープもあるよ」
「わぁ、お肉!」
大翔は目を輝かせ、美咲も驚いた。
「そんな本格的なものを?」
「せっかくなので。低温調理だから、きっと柔らかいですよ」
キッチンのカウンターには、彩りよく並べられた料理がすでに準備されていた。
料理好きとは聞いていたけれど、ここまでとは……と美咲は感心する。
瀬尾がテーブルをセットしながら、大翔に尋ねた。
「お肉、好き?」
「うん! いっぱい食べる!」
「じゃあ、特別に大盛りにしようか」
「やったー!」
そんなやり取りを見て、美咲はふっと笑った。
仕事ではクールで効率重視の瀬尾が、子どもにこんなふうに接するとは思わなかった。
「佐伯さんも、どうぞ座ってください」
「ありがとうございます。いただきます」
美咲がフォークを入れると、肉は驚くほど柔らかく、口に入れた瞬間、じゅわっと旨味が広がった。
「……おいしい」
思わず声が漏れる。
「よかった」
瀬尾は淡々としているが、どこか満足そうだった。
大翔も次々と料理を口に運び、「お兄さんのご飯、おいしい!」と何度も言っていた。
その言葉に瀬尾が小さく笑うのを見て、美咲は少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
――自分以外の大人が、息子に料理を作ってくれるのって……こんな感覚なんだ
夫と離婚してから、ずっと美咲一人で大翔を育ててきた。
もちろん、それが当たり前で、特に寂しいとも思わなかった。
でも今、大翔が嬉しそうに「おいしい!」と言って食べる姿を見て、美咲は少しだけ、普段とは違う気持ちになった。
食事が終わる頃、瀬尾が何気なく言った。
「もし何かあれば、いつでも連絡してください」
「え?」
「ほら、料理のことでも、大翔くんのことでも」
美咲は驚いたが、瀬尾の表情はいつも通り淡々としている。
「……ありがとう」
その言葉を受け入れることに、なぜか抵抗はなかった。