シンママ派遣社員とITコンサルの美味しい関係

第十九話「大翔の願い」

 金曜日の夜。

 美咲が夕食の後片付けをしていると、大翔がソファに座りながら、ふとつぶやいた。

「ねえママ、お兄さんとまた遊びたいな」

「え?」

 思わず手を止めて、大翔の方を見る。

「お兄さんと?」

「うん。お迎えに来てくれたときも、お勉強一緒にしてくれたし、この前のご飯も楽しかったし……。お兄さん、すごく優しいし、面白いし」

「……そうね」

 美咲は曖昧に微笑んだ。
 確かに、瀬尾は大翔にとっても頼れる存在になりつつある。

 でも、だからといって、気軽に遊びに誘うのはどうなんだろう。

「また、ご飯作ってもらいたいの?」

「うーん、それもあるけど……」

 大翔は少し考えたあと、はっきりと言った。

「お兄さんとずっと一緒にいたい!」

「……え?」

 美咲の胸が、ドキリと鳴った。

「だって、お兄さんといると楽しいし、ママも楽しそうだから」

 そう言われ、美咲は何も言えなくなる。
 大翔にとって、瀬尾はもう家族のような存在になりつつあるのだろうか。

「ねえ、ママ。今度、お兄さんと一緒に遊びに行ってもいい?」

 無邪気な瞳で聞いてくる大翔を前に、美咲は小さく息をついた。

――断る理由もないわね。

「……そうね。瀬尾さんの予定もあるから、聞いてみないとだけど」

「やった!」

 大翔が飛び跳ねるように喜び、美咲は苦笑した。

  ◇◇

 美咲はスマホを手に取り、瀬尾にメッセージを送った。

「こんばんは。突然ですが、大翔が『またお兄さんと遊びたい』と言っていて……もし週末、ご都合がよければ、一緒にお出かけしませんか?」

 送信ボタンを押すと、すぐに既読がついた。

「こんばんは。それは嬉しいですね。僕も大翔くんと遊ぶの、楽しいので」

――よかった、迷惑じゃなかったみたい。

 美咲が少し安心した瞬間、さらにメッセージが届く。

「予定は空いてます。どこか行きたい場所はありますか?」

「ママ、なんて言ってる?」

 隣でスマホを覗き込んでくる大翔に、美咲は少し笑って「聞いてみるね」と返した。

「大翔に聞いてみますね。何か希望あります?」

「そうですね……水族館とか、公園とか?」

「大翔、水族館か公園だって。どっちがいい?」

「水族館! 魚いっぱい見たい!」

「水族館がいいみたいです」

「了解しました。じゃあ、土曜日に行きましょう」

「ありがとうございます。それでは、また当日よろしくお願いします」

「こちらこそ。楽しみにしています」

 こうして、週末、大翔と瀬尾と3人で水族館に行くことが決まった。

 その夜、美咲は布団に入りながら、先生の言葉を思い出していた。

「親子にしか見えなかったわ」

 ──私、どうするつもりなのかしら。

 ふと、そんな考えが頭をよぎる。

 でも、その答えは、まだ美咲の中ではっきりとは出なかった。
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