シンママ派遣社員とITコンサルの美味しい関係

第二十一話「答えはもう出てる」

 水族館での帰り道、瀬尾からの言葉が何度も頭の中で反響していた。

「僕は、佐伯さんと大翔くんと、一緒に未来を歩みたいです」

 本気で、真剣に伝えてくれた気持ち。
 美咲はそれを受け止めながらも、自分がどうすべきか迷っていた。

――私は……本当にこの人と一緒に生きていくことができるの?

 自分ひとりの問題ではない。
 大翔のこと、仕事のこと、周囲の目……いろいろなことを考えると、簡単に答えを出すことはできなかった。

   ◇◇

 翌日、美咲は友紀子をランチに誘った。
 いつものカフェテリアではなく、会社の外で。

「なんか珍しいね。美咲が社外ランチに誘うなんて」

「……ちょっと、社内じゃ話しにくいことだから」

 友紀子は目を輝かせた。

「えっ、それってもしかして、瀬尾さん関連?」

 美咲は苦笑しながら、注文したパスタを軽くフォークで巻いた。

「……うん」

「ほうほう、で? 何があったの?」

「昨日、大翔と瀬尾さんと3人で水族館に行ったの」

「また? もう完全に家族じゃん!」

「違うわよ……まだ」

 美咲は少し視線を落としながら続けた。

「それで、帰りに瀬尾さんから……告白されたの」

「……えっ、マジで?」

 友紀子の手が止まる。

「ど、どんな感じだったの?」

「結婚を前提に付き合いたいって……私と大翔と、3人で未来を歩みたいって言われたの」

 その言葉を聞いた途端、友紀子はフォークを置き、テーブルに身を乗り出した。

「ちょっと待って、それって、もうほぼプロポーズじゃないの?」

「……そうなのかもしれない」

「で、美咲はなんて答えたの?」

「……すぐには答えられなかった」

 美咲は小さく息を吐いた。

「私、バツイチだし、6歳も年上だし、それに大翔もいる。そんな私を受け入れてくれるのは嬉しいけど……」

「けど?」

「やっぱり、簡単に決めていいことじゃないって思ったの」

 友紀子はじっと美咲を見つめる。

「……ねえ、美咲。あんたの答え、もう出てるんじゃない?」

「え?」

「だって、今までの話を聞いてると、美咲は瀬尾さんをずっと意識してたし、何より、大翔くんがすごく懐いてるでしょ?」

「それは……」

「それにさ、瀬尾さんって、大翔くんのこともちゃんと考えてるでしょ? 適当な気持ちじゃなくて、本気で2人と向き合おうとしてる。それってすごいことじゃない?」

 美咲は言葉を失った。

「シングルマザーだから恋愛しちゃいけないわけじゃないし、大翔くんのことをちゃんと考えてくれる人なら、それでいいんじゃない?」

「……」

「美咲は今まで一人で頑張ってきた。でも、これからもずっと一人でいなきゃいけないわけじゃないでしょ?」

 友紀子の言葉は、ストレートだった。

 そして、その言葉が、美咲の胸にじんわりと広がる。

――私は……ずっと一人で大翔を育てていくと思ってた。でも、この人となら……。

 美咲は小さく笑った。

「……そうね。ありがとう、友紀子」

「おっ、吹っ切れた?」

「うん。もう少しだけ考えて、ちゃんと答えを出すわ」

「そうそう、それでいいのよ」

 友紀子は満足そうに微笑んだ。  

   ◇◇

夜、美咲は瀬尾にメッセージを送った。

「明日、少しお時間をもらえますか?」

 しばらくして、すぐに返信が来る。

「もちろん。いつでも大丈夫です」

──ちゃんと向き合わなきゃ。

 美咲は少しだけ迷ったあと、もう一通メッセージを送った。
「二人だけで、お話ししたいです」

 瀬尾からの返信は、すぐに届いた。

「分かりました。明日のお昼は、社外のレストランでランチしましょうか?」

「はい。お願いします」

 スマホの画面を見つめながら、美咲は深く息を吐いた。

――私は、この人と大翔と、一緒に生きていきたい……そう思ってる。

 次の日、瀬尾に会って、その気持ちをちゃんと伝えよう。

 決意が、ようやく固まった。
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