シンママ派遣社員とITコンサルの美味しい関係

第二十五話「プロポーズ」

 週末の夜、美咲はキッチンで夕食の準備をしていた。
 大翔はリビングでテレビを見ており、時折笑い声が聞こえてくる。

 玄関のチャイムが鳴り、美咲は手を拭きながらドアを開けた。

「こんばんは」

「こんばんは、亮介。寒くなってきたわね」

「そうだね。でも、部屋の中は温かそうだ」

 亮介は優しく微笑みながら、手に持っていた紙袋を差し出した。

「これ、ワイン。今日のご飯に合うと思って」

「ありがとう。ちょうどよかったわ」

 リビングに入ると、大翔が「お兄さん!」と嬉しそうに駆け寄ってきた。

「お兄さん、今日のご飯なに?」

「今日は、ママが作るごはんだよ。とても、美味しそうだよ」

 大翔が席につくと、美咲と亮介も並んで座った。
 食卓には、照り焼きチキンとポタージュ、サラダが並んでいる。

「いただきます!」

 3人で食事をしながら、他愛もない会話を交わす。
 何気ないこの時間が、いつの間にか美咲にとって、とても心地よいものになっていた。

   ◇◇

 食後、大翔が眠った後。

 リビングのソファで、亮介が静かに口を開いた。

「……大翔、すっかり寝ちゃったね」

「ええ。今日もたくさん遊んだから」

「本当に、いつも元気いっぱいだよね」

 亮介はクスッと笑いながら、大翔の寝顔が見える部屋の扉をちらりと見た。

「それも、美咲がずっと大翔を大切に育ててきたからだと思う」

 美咲は少し驚いたように亮介を見つめる。

「そんなこと……」

「あるよ」

 亮介は真剣な表情で続けた。

「大翔を見ていると、すごく分かる。美咲がどれだけ愛情を注いで、ここまで育ててきたのか」

 美咲は一瞬、言葉を失った。

「だからこそ、僕も……ちゃんと向き合いたいと思うんだ」

 そう言いながら、亮介はポケットから小さな箱を取り出した。

「美咲」

 静かに名前を呼ばれ、美咲の心臓が高鳴る。

「僕と結婚してください」

 箱を開けると、中にはシンプルなプラチナの指輪が輝いていた。

 美咲は息をのむ。

「亮介……」

「美咲と大翔と、家族になりたいと思ってる」

 その言葉は、まっすぐで、温かかった。

「だから、これから先もずっと、一緒にいてほしい」

 美咲は、ゆっくりと目を閉じた。

 最初は、もう誰かと人生を歩むなんて考えられなかった。
 でも、亮介と過ごす時間の中で、少しずつ気持ちが変わっていった。

「亮介がそばにいてくれると、すごく安心するの」

「うん」

「それに……大翔も、あなたのことが本当に大好き」

 亮介は静かに頷く。

 美咲は、そっと指輪に手を伸ばした。

「私も……あなたと一緒にいたい」

 指輪を手に取ると、亮介が微笑みながら、美咲の手をそっと握った。

「ありがとう、美咲」

 二人の間に、温かな空気が流れる。
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