シンママ派遣社員とITコンサルの美味しい関係

第四話「キックオフ」

「美咲さん、スタイルコネクト社のプロジェクトのキックオフミーティングを今週中、なるべく早くに開催したいの。メンバーのスケジュール調整と会議室の手配をお願い」

 朝のオフィス。プロジェクトマネージャーの村瀬麻里が、美咲のデスクに立ちながら手際よく指示を出す。

「参加メンバーは、岡田さん、鈴木さん、野々村さん……あと、今回は技術リーダーをエマージングテクノロジー部から出してもらってる」

「瀬尾さんですね。挨拶にきました」

 美咲が答えると、麻里は少し驚いたように目を細めた。

「あら、抜け目ないわね」

 美咲は軽く微笑むと、早速エマージングテクノロジー部のグループセクレタリー、浜田絵美里に電話で連絡を入れる。

「プロジェクトのキックオフミーティングを実施するので、瀬尾さんのスケジュール調整お願いできますか? 今週中で参加可能な時間を教えてください。枠は1時間半です」

「えっと、瀬尾さん、今週は全部埋まっているような……」

 絵美里の声が少し歯切れ悪く響く。

「優先度の高くない予定もあるはずよ。調整可能か、確認お願いできますか」

「確認して連絡します」

 美咲は電話を切った。

 ――1時間待ったが、連絡は来ない。

 急いでいるからメールではなく電話しているのに、浜田にはそのような意識はないのかもしれない。
 このプロジェクトがスムーズに動き出せるかどうかは、キックオフのタイミング次第。それなのに、こんな調整ひとつで時間を無駄にするわけにはいかない。

 ふと、美咲は昨日の瀬尾の言葉を思い出した。

「浜田さんを通すのが基本だとは思うんですが、念のため」

 ――もしかして、こういうこと?

 浜田さんには悪いけど、直接連絡させてもらうわね。

 美咲はスケジュール管理ツールを開き、瀬尾亮介の予定を確認する。
 アクセス権限が付与されていたおかげで、彼のスケジュールがすぐに表示された。

 確かに、予定はびっしり詰まっている。だが、細かく見ていくと、優先度がそこまで高くなさそうな部内ミーティングや社内事務の時間もある。
 この時間、調整すればなんとかなるはず。

 そう判断した美咲は、迷わずスマホを取り出し、瀬尾に直接電話をかけた。

 コール音が数回鳴った後、すぐに瀬尾の低く落ち着いた声が聞こえた。

「はい、瀬尾です」

「佐伯です。スタイルコネクト社のプロジェクトの件で、お時間よろしいですか?」
 美咲が問いかけると、瀬尾は「はい、大丈夫です」と即答した。

   ◇◇

 美咲のスケジュール調整により、無事、予定通りキックオフミーティングは実施された。

 これ以降、瀬尾のスケジュール調整は、美咲が直接行うことが暗黙のルールとなった。
 本来なら自分を通すべき立場の絵美里だったが、「美咲さん、手際いいわね」と、まるで気にする様子もない。

 美咲は苦笑しつつ、これで仕事がスムーズに進むなら、と割り切ることにした。

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