いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
「それで何があったの?」
一息ついてから声をかけると、絵麻は浮かない表情で口を開く。
「実はお母さんの事故の相手と揉めてるの」
「どういうこと?」
電話では、母の車に相手の車がぶつかって来たのだと聞いていたが、事実は違っているのだろうか。
「お母さんの事故の相手が有名人だったの。藤倉(ふじくら)玲人(れいじ)さんって知ってる?」
麻衣子は少し考えてから、首を横に振った。
「名前は聞き覚えがある気がするけど」
「少し前からメディアの露出が増えた人なんだけど……」
絵麻の話によると、事故の相手である彼は大物政治家、藤倉衆議院議員の令息で、本人はモデルとして活躍している。麻衣子がなんとなく名前を覚えていたのはそのためだ。
事故の経緯だが、母が運転する車に玲人が運転する高級外車が衝突したとのこと。
その状況なら、母は被害者の立場になるはずだ。
基本的には、たとえ前方の急ブレーキが原因だとしても、ぶつかった方――今回の場合は玲人の前方注意不足や、車間距離が足りなかったところに問題があるとされ過失責任が大きくなるから。
ただ、母は突然飛び出して来た犬に驚き、咄嗟にブレーキを踏んでしまったそうだ。後続の玲人の車が止まれずにぶつかってしまったのは不可抗力で、母にも過失があると思う。
「揉めているのは、車の修理代とかお金の問題?」
麻衣子は恐る恐る聞いた。玲人は高級外車に乗っていたと言っていた。弁償しろと言われているのかもしれない。
「それもあるけど、玲人さんが怪我をして顔に傷がついてしまったの。仕事柄致命的なことで、損害賠償をしろと怒っていて」
「え……」
麻衣子は思わず絶句した。
衝突した側の玲人が、そこまで酷い怪我を負っているとは思わなかったのだ。
(詳しくは分からないけど、モデルが顔を怪我したとなったら、賠償金は大変な金額になるんじゃ……)
しかも絵麻が言うには、玲人は普通のモデルではなく“人気モデル”だ。
「お母さんの場合、動物が飛び出してきて急停止したから、ある程度の過失があると判断されるんだって。お母さんも仕事ができない状況だけど、収入が桁違いでしょう? だから……」
母と玲人では、損失額が違うということだ。
「責任を取らなくちゃいけないということだよね」
麻衣子は絵麻の深刻さを理解して、視線を落とした。