いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
 麻衣子は素早く文面を確認した。

 示談金として、玲人側が百万円を支払い、雨村家の負担はなしとなっている。

 麻衣子たちにとっては、非常に都合がよい内容だ。ただ続く内容が気になった。

「これは……どういうことですか? 事故については示談で解決したものとし、口外は禁止とする。それに、玲人さんの費用負担で私たち家族が住まいを変えるって」
「そのままの意味です。依頼人は、事故について第三者に知られることを望みません。そのため、あなた方家族と玲人さんとが今後一切の関わりを絶つことを希望しているのです。転居もそのためです」

 麻衣子は戸惑い僅かに首を傾げた。

 なぜ玲人との関わりを絶つことに拘るのか。示談が終わったら当然関係はなくなるのに。

「あの、おっしゃる意味が……」

 そう言った瞬間、はっと気がついた。

 先ほどから代理人は、依頼人と玲人さんと呼び分けている。

(そうだ。初めに藤倉家の代理人だと言っていたじゃない)

 つまり代理の彼は玲人ではなく、おそらく彼の父親から依頼を受けているのだ。

 玲人の父親は有力な政治家だから、プライべートでのトラブルは避けたくて解決を急ごうとするのかもしれない。

「引っ越しをしなくても私たち家族は玲人さんに付きまとったりしません」

 有名人の彼のストカーになったら困ると、心配されているのだろうか。

「あなた方がそのつもりでも、玲人さんから接触する可能性があります。藤倉先生は選挙を控え慎重になっているのです」

 だいたい麻衣子が予想した通りだった。

「選挙中にトラブルが発覚したら困るからということですよね」

「はい。玲人さんは知名度が高く、目立ちやすいのです。些細な出来事でもニュースになり曲解されることがあります。今回の事故についてもデマが流れるかもしれない。そのため世間に知られないように対策を取りたいのです」

 たしかに最近はSNSが盛んで個人にも発信力がある。間違った情報が、まるで真実のように拡散されることは珍しくない。

 藤倉氏は、その点を心配しているのだろう。

「でもさすがに引っ越しは無理です。家族三人が転居するのは負担が大きすぎますから。事故の件を口外しないという約束はしますが」

「大変でしょうが不可能ではないと思います。それにこの条件を飲んで頂かないと、お母さまは高額の慰謝料を請求されますよ」
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