いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
「ふふ、ありがとうございます。昔は畑ばかりだったんですけど、急に開発が進んで随分変わったんですよ。すごく便利になりました」

 陽菜が楽しそうに言う。彼女は自分が暮らす街を気に入っているようだ。

「結婚したら、こっちに家を持とうと思っているんだ。通勤時間はかかるが、暮らしやすいのが一番だからな。実家の近くだと日本を離れている間もなにかと都合がいいし」

 相場が会話に入ってきた。

「そうだな」

 長期の海外赴任が多い外交官としては、安心できる場所にホームがあるのはいいことだ。

 しばらく会話をすると、陽菜が一度自宅に帰るとのことで病室を出て行った。

 気を遣い相場とふたりにしてくれたのかもしれない。

「明るくしっかりしていて、よい人だな」

 裕斗は陽菜が出て行ったドアをなんとなく眺めながら言った。

 人見知りせずに社交的なところは、外交官の妻に向いている。

「まあな」

 相場はまんざらでもないように、目を細める。

「想像していたよりも元気そうだ」

 先日電話で話したときは沈んだ様子だったから、相当体調が悪いのかと心配していたが、この様子では大丈夫そうだ。
 相場が苦笑いになる。

「あいつが支えてくれるからな」
「心強いな」
「ああ。長い付き合いだから、言葉にしなくても分かってくれる。変に励ますよりも、傍で明るく笑ってくれているから助かってるよ」

 彼女のことを語る相場は幸せそうにみえた。

「半年後の結婚式を延期にしないように早く直るといいんだけどな」
「手術はうまくいったんだろう?」

 裕斗は掛け布団に隠れた足にちらりと目を遣る。

「ああ、けどもう一度手術があるんだ。その後リハビリだからな。ああ、あのとき事故を回避できてたらこんな面倒なことにならずに済んだのに」

 はあとため息を吐く相場の様子に、裕斗は眉を下げた。

「仕方がない。見晴らしが悪い場所でのもらい事故だったんだろう?」

 場所によっては街灯がなく、危険なところもある。注意していても事故が起きてしまうこともあるだろう。

 しかし相場は顔を曇らせた。

「でもな、相手が最悪だったよ」
「まさか無保険だったのか?」
「いや、そうじゃないが、明らかに危険運転だったんだ。スピードを出しすぎていたし、前方不注意だった。あの様子じゃ他でも事故を起こしてそうだ」
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