異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
「あ、の……私は面白い話をできるタイプではなくて……」
「そんな気を遣わなくてもいいわ。いてくれるだけでいいの。そうね……あなたはとても口が堅そうな気がしたの。ここでの話を口外しないでいてくれる。そう思ったのよ」
「いるだけ……」
「ええ」

 なぜ、いるだけでいいのか。説明がしづらいわ。

「分かりやすく言うとですね――」

 チェルシーが口を開く。
 
 思ったよりも天然な子だし、何を言い出すか怖いわね。

「王子様お二人によってレイナ様争奪戦が繰り広げられているんです。場の空気の緩和のために口が固そうで落ち着きのあるブレンダ様が呼ばれた感じですね」

 そのまんまだー!

「争奪戦ではないよ。私のものになるのは決まっている」
「今はまだ僕の婚約者だ」

 また始まった。
 
「二人とも愛はないくせに……」

 あ、つい本音が。
 
「い、いや……」
「大丈夫だ。そんなものは後づけでなんとかなる」
「そんな言い方はないだろう。少なくとも僕の方がもっと――」
「婚約破棄を言い渡した直後に撤回する男が何を言ったところで説得力はないですよ、兄上」
「――――くっ。頭が冷えたんだ、我に返った」
「すぐに熱くなる兄上とは違って私はいつだって冷静ですよ」
「いつも冷静な男よりは僕の方が人間味があるはずだ」

 はぁ……、紅茶を飲もう。
 空が青いわね……お茶会日和だわ。

「な、なるほど。状況は分かりましたわ」

 少しだけため息をついて、ブレンダがヤンヤカ言い争っている王子二人を見る。しかし……その瞳は少し潤んで頬が赤い!?

 もしや……!?

 チェルシーもそれに気付いたようで、やや首を傾けて考えるそぶりをしたあと、ここには存在しない単語を呟いた。

「……ボーイズラブ……?」

 ブレンダの瞳がギュインとなった。すぐに気を取り直したようにコホンと小さく咳払いをして「な、なんでしょうかそれは」と返す。

 これは……三人目の転生者……? 私はもしかしてそんな女性を引き当てたってこと?

 しかし、私にボーイズラブの趣味はない。いきなり二人になった時にBL談議が始まっても困るので触れないでおこう……。チェルシーも「なんとなく言ってみただけです。意味はないですわ」と言いながら私へと軽く頷いた。

 だよね、やっぱり……。
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