まだ誰も知らない恋を始めよう

30 情緒の高低差激しめなわたし

 通されたのは、ごく普通の応接室だ。
 わたしは2人掛けのソファに座り、向かい側の肘掛け椅子にヴィオン教官が腰を下ろした。
 最初に、わたし達にお時間を取ってくれた御礼を言う。


「今日は事前に面会予約もせずに押し掛けまして、申し訳ありません。
 授業があったのではありませんか?」

「月曜日は先週の報告書を作るので、1日事務作業なんですよ。
 お気になさらず……
 お話を伺う前に、少々お待ちくださいね」 

 そう言うと、ヴィオン教官は目をつぶり。
 しばらくすると、目を開けられて
「これで大丈夫ですよ、通常より強めの防音を掛けましたので、本当のお名前を教えてくださる?」と素晴らしく綺麗な笑顔で仰られる。


 これが有名な無詠唱魔法!?
 この一瞬で、この部屋に防音を掛けたの!
 隣に座ったフィニアスも、凄い、と呟いている。
 目の前で行われた超上級魔法に、もの凄くテンションが上がるわたしだ。


「……偽名を使って申し訳ありません。
 わたくしは、ダニエルと申します。
 王都大学の3年生で、ジェラルディン嬢とは仕事先が同じで、紹介していただきました。
 それで今日は……」
 
「マッカーシー嬢は、そちらの方の件でいらっしゃった?」
 
「……はい、教官には彼が見えていらっしゃるんですね?」

「貴女は生徒でも、学院関係者でも無いので、教官ではなく、どうかベッキーと」

 にっこり笑顔で愛称呼びを求められて、相手は女性なのに、わたしはときめいた。
 では、お言葉に甘えて。

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