まだ誰も知らない恋を始めよう

34 優しい目をして、簡単にさよならを言う彼

 昼下がりの、他には誰も居ないバス停で。
 いつもに増して優しい目をしたフィニアスが、わたしにさよならを告げる。


「こんな状態なのに、ちょっと嬉しかった。
 本当に……不謹慎だけど、金曜日からずっと楽しかったんだ。
 バスに初めて乗って、料理も初めてしたし」


 わたしも楽しかったよ、自家用車送迎が当然の王子様にバスの乗り方を教えて、2人で騒ぎながら食べる夕食は。
 何でもない、普通のメニューなのに、貴方は美味しそうに平らげてくれるから、嬉しかった。 


 ……わたしと居ると毎日が面白い、って言ってくれたでしょう?
 わたしもひとりじゃない毎日がずっと続かないのは分かってたけど、今はまだ……



「……楽しかったんなら……それでいい。
 それでいいでしょう?
 このまま迷惑って? 今更だよ?
人の講義にまで付いてきて、絶対に逃がさない、って言ってたよ?
 ここまで……二人三脚で、頑張って来たのに?」

「二人三脚は……違うね、俺は何も出来なくて、全部君に任せっきり。
 ……もっと簡単に思ってたんだ。
 俺は見えなくなったけど、見える君が一緒に居てくれたら、直ぐに解決出来るだろうって。
 だから、安易にロジャーを犯人だと決めつけた。
 あいつを締め上げて、からくりを吐かせて、それで解決、俺は元に戻れて、君と手を取り合い、めでたしめでたし、ってね」


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