まだ誰も知らない恋を始めよう
 こんな時でも、彼の声は明るい。
 ここまでわたしのペースを乱しておきながら、最後まで軽い調子でお別れするつもりだ、と……


 わたしには、分かってしまった。


「だけど……ここまでにしよう?
 逃亡した外れを追い掛けて、何処まで行く?
 変身した外れを見つけるのに、何年掛かる?
 ……もうこれ以上、俺以外を巻き込んで、誰も危険な目には遇わせたくない。
 特に君には……さっきはあんな……
 あんな怖い思いをさせてしまった」

「ぜ、全然! 全然怖くなかったよ! 何言ってんの?」

「……」


 わたしが怖がるところを見せてしまったから?
 だからフィニアスは離れようとしてる?


「赤毛のベッキーは、わたしや叔母の能力の事、魔法庁には報告しないと言ってくれたのに?
 その件は解決したじゃない!
 マッカーシーが罰を与えられる事は無いんだから!
 それを、まだ、気にしてるの?
 頭を切り替えよう?
 やっと次にするべき事も見つかって、何となく道筋が見えてきた気がしない?
 明日にでも叔母を訪ねてみるから、頼むから!
 助けてください、力を貸してください、って頼むから!
 だから、まだ、まだだよ……まだ、ここで諦めるのは早いよ?」


 いいぞ、いいぞ、話し出せば。
 フィニアスに口を挟まれないように、一気に捲し立てれば、スムーズに言葉が出てくる。
 良い調子だ、このまま彼を説得出来るんじゃ……


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