まだ誰も知らない恋を始めよう
 ご両親がわたしを信じてくれたなら、少なくともフィニアスはご家族からの庇護は受けられる。 

 そして、わたしも元の生活に戻る。
 フィニアスとは何の関わりも無かった、元のわたしに戻る。
 そうなれば、貴方は安心するのでしょう?


「こうなると、先に魔法学院に行って良かった、と思わない?
 お父様に怪しまれても、ヴィオン教官に問い合わせてください、って言えるもの」
 

 わたしは、ちゃんと言えてる? 普通に出来てる?
 ……これで、貴方はひとりで何処かへ消えたりしないよね?
 

 彼はずっと考え込んでいて……顔を上げた。


「……そのためにだけでも、ダニエルが俺の恋人になってくれるのなら」

 彼はそう言って、わたしの右手から指輪を抜いて。
 左手の薬指に嵌め直した。


「ずっと、こっちに嵌めてて欲しい。
 それと、もう1つお願いがある。
 フィニアスじゃなくて、恋人なんだからフィンと呼んでくれないと」

「う、うん、了解しました、フィン……」


 謝礼金の話が出てから、わたしは彼をフィンと呼ぶ事をやめた。
 それに、気付いていた?


 
 彼とわたしの会話は、そこで一旦途切れた。

 バス停に他の人が来て、わたしの後ろに並んだからだ。

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