まだ誰も知らない恋を始めよう
 言い訳になるが、ダニエルから
「貴方は自宅に戻って、魔法庁が外れを捕縛するのを待ってて」と言われ。
 そうか、ここで俺が何処かへ消えるより、その方がダニエルも以前の生活に早く戻れるのだと気付いた。


 この週末をダニエルと過ごして分かったのは、ダニエル・マッカーシーとは、彼女本人が思うよりも繊細で、心優しい女性だということだ。

 魔法学院で赤毛のベッキーに脅された時、彼女は俺を少しも責めなかった。
 王家に逆心あり、みたいに言われても、
「貴方のせいじゃない、わたしが馬鹿だったせい」なんて言うし、聞いているこちらが辛くて切なくなるような事を、計算せずに言うひとなんだ。


 そんな彼女に、これ以上の迷惑を掛けるのは心苦しかったから、俺は離れなくてはと思ったけど、よく考えたら、そんなことをしたら。
 気遣いをする彼女は俺を探してしまうかもしれないことに気が付いた。
 俺のために要らない心配をさせるくらいなら、素直に自宅へ戻った方が迷惑を掛けずに済む。


 そう考えて……俺は指輪を、ダニエルの左手薬指に嵌め直した。


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