まだ誰も知らない恋を始めよう
 そんな風に不安定な迷宮に片足が入ったような状態で、カフェに戻れば。
 ちゃんと待っててくれていたステラに、怒られた。


「何なの? ランチも食べかけのままで、バッグも置いて急に居なくなるなんて!
 黙って消えたから、あなたの荷物なんか置いて行っちゃおうと思ってたのよ?」

 
 お昼休みもそろそろ終わるし、次の教室へ移動しようと思ってた、とステラはポンポンと続けるけれど。

 ステラ・ボーンズは普段の口調や態度はキツくても、実は性格はわたしよりも優しい。
 だから面と向かっては心配していたのを隠して、可愛くない事を言っているが、わたしが戻ってくるまで、ずっと待っててくれているのは分かってた。


 けれど……どうして?
 わたしの隣、つまりステラの斜め前に座るフィンには目もくれずに無視するなんて。
 これって本当に? 本当にステラには彼が見えてないの?

 不意に、左隣に座るフィンに肩を抱かれて引き寄せられた。
 そして耳元で、
「ね、友達は僕の方を見てないだろ?
 さっき頼んだみたいに聞いてみてよ」

 こんな風に目の前で、フィニアス・ペンデルトンに肩を抱かれるわたしを見たら、絶対ステラも他のテーブルの人達も騒いだはずだ。
 なのに、誰も何も言わないのは……
 
 
< 16 / 289 >

この作品をシェア

pagetop