まだ誰も知らない恋を始めよう
「僕は君の隣に座るけど、彼女には言わずに、さりげなく僕の事を聞いて。
 彼女にしてみれば、僕がその場に居ないから、忖度なく思う事を話してくれるはずだから」


 フィンはまだ『見えるのは君だけ』設定を続けるつもりみたい。
 わたしの隣に居るのは内緒にして、って言うけれど。
 それって、わざわざ言わなくったって見れば分かるじゃない。

 でも、もしもこれが、わたしを引っ掛けるゲームじゃなくて。
『自分の姿は誰にも見えない』なんて、本当に彼がクスリのせいで妄想しているのなら。
 おかしな人には逆らわない方がいい。

 ステラのところには案内するけど、彼に適当に合わせてやり過ごそう、と気付かれないように伝えないと。


 わたしはそう考えて。
 外見最高、中身残念なフィニアス・ペンデルトンと、ステラが待ってる第3カフェテリアへ歩き出した。


「皆には僕の姿は見えないから、絶対に話しかけないで。
 じゃないと、君は1人で喋ってる変な女の子になる」

 変なあんたに、変だと言われたくないよと文句を返したいけれど。
 言われた通り、黙って歩く。

 だけど……見事に誰もこちらを見ない。
 わたしの手を、あのフィニアス・ペンデルトンがずっと掴んでいて、引っ張るように先を歩いているのに。

 途中でペンデルトンガールズの1人ともすれ違ったが、どうしてだろう、彼女はフィンに視線もくれない。

 
 ……これは。
 ここまで徹底して、ここに居る全員でわたしを騙す、なんて無理な話では……
 これは、もしかして……本当に?
 本当に、フィニアス・ペンデルトンは誰にも見えていないの?
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