まだ誰も知らない恋を始めよう
「この切れ端を使え?」

「逃亡したジャック・メイトリクスが使っていたノートを千切ったんじゃないかな」

「即行で保管場所に侵入して、証拠物件の外れのノートのページを千切って、ですか……
 やりたい放題のオルらしいですね。
 それでも、ノートそのものを持ち出したら、直ぐにバレちゃう位の常識は持ち合わせていたんだ」

「オルくんね、自分には監視が付いてて自由には動けないけど、メイトリクスを連れてきたら喰ってやる、って瞳を光らせてた」

「……訂正します。
 やっぱり、オルには常識なんて無いですね。
 それってダニエルさんに、自力で外れを捕まえて来い、って言うことでしょう?」

「うん、そうなるね」


 そう言ったわたしの顔を、ジェリーが疑わしそうに見ている。


「その外れが得意なのは、変身魔法でしたっけ?
 探し出す当てはあるんですか?」

「うーん……叔母がね、どんな能力を持っているのか、この小さな紙切れが役立つのかは分からないけれど、訪ねてみようと思ってる。
 自力じゃ何も出来ないわたしって情けないね」

「……能力も魔力も無いわたしが言うのも偉そうなんですけど。
 自分の力の限界を知る、認める、助けを求める、って至極真っ当な事だと思うのに、中々出来ない事ですよ。
 ダニエルさんは凄い、です」


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