まだ誰も知らない恋を始めよう
 ダニエルがまだ居た時に、肯定する時は1つ、否定する時は2つ、物音を立てると、両親に伝えた。
 

 認識出来ない俺を気遣ってくれる母に返事をするため、俺は玄関の扉を1度だけ叩いた。


   ◇◇◇


 自室のベッドで横になるのは久しぶりだ。

 この1週間ずっと、ホテルロビー奥の端に置いてある1人掛けソファーで眠っていた。

 当然、体は伸ばせなくて熟睡なんて出来ないが、それでも。
 朝までの長い時間、皆が起き出すまで無音の中に居るのが耐えられなくて。
 24時間誰かしらが起きていて働いているホテルに居ると、自分は1人じゃないんだと安心出来て、俺は自宅よりホテルで夜を過ごす事を選んだ。

 そうは言っても、多くの人々が出入りし行き交う昼間とは違い、チェックイン業務終了後の夜間のロビーは静かだ。
 夜勤のフロントスタッフも用事が終われば、カウンターのベルが鳴らされない限り奥に引っ込む。


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