まだ誰も知らない恋を始めよう
 高い天井からは、複雑で繊細な作りの年代物のシャンデリアがいくつもいくも等間隔で吊るされていた。
 誰にも見えないのをいいことに、だらしない姿勢でソファーに座る俺は、毎晩それを見上げ。

 いつ、どんな人が、どんな風に、このシャンデリアの清掃をしているのだろうか、とか。
 あの天井の絵画はどうやって取り付けたんだろう、とか。


 幼い頃から出入りしていたのに、1度も意識した事も無い、そこに存在しているのが当たり前のもの。
 今まで見てもいなかった物や箇所について、長い夜の暇つぶしにあれこれと思いを巡らせていた。


 そんな感じで1人の夜を過ごせるようになったのは、ダニエルが俺を見つけてくれた金曜からだ。


 それまでの俺はこの状況が受け入れられず、泣き、喚き、感情の赴くままに暴れ、神を呪った。
 ダニエルには控えめに言ったが、気付いて欲しい俺の暴れ具合は、我ながら酷くて、そりゃエクソシストが呼ばれるのも無理はない位だった。


 悪魔祓いと霊能者の後は、家族に気付いて貰う事をあきらめて。
 ただ、時間を潰すためにホテル内を徘徊して。
 昼休みに間に合うように大学へ行き、そこでも誰か声を掛けてくれないかと、またウロウロした。


 そんな長い孤独から俺を救ってくれたのが、ダニエルだ。
 彼女が俺を見つけてくれたから、俺は自分を取り戻せた。



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