まだ誰も知らない恋を始めよう
 連休はロジャー・アボットと過ごすのだろうか。
 連休前の最後の授業に向かうステラの足取りは軽い。


 共に去りゆく彼女を見送って、フィンが満面の笑顔をわたしに向けた。


「どう? これで君も信じる気になった?
 僕の姿が見えるのは、自分だけなんだ、って」

「……」

「そーゆーことだから、絶対に君を逃がさないよ?」


 普通だったら、フィンのような男性から
「絶対に君を逃がさない」なんて言われたら、うっとりするんだろうけれど。


 そんな風に言われて肩を抱かれたって、この男が透明人間だと知ったからには、冷たいようだが逃げるの一択しか無い。

 フィンが大変な状況に陥っているのは、本当にお気の毒だと思う。
 だからこそ、彼は何も出来ないわたしにくっつくのではなくて、現状を解決出来そうな術を持つ人を頼るべきだ。

 だって、わたしにどうしろと?
 超常現象は専門外、ホラージャンルは小説だって読まない、と決めている。
 それに肝心なことだから、何度も言う。
 わたしとフィニアス・ペンデルトンは、元々は知り合いでさえないのだ。


「えー、では……では、わたしもこれから午後の授業がありますので。
 それでは……では、ごきげんよう……」

 周囲に聞こえないよう、隣に座ってる彼にお別れを言う。
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