まだ誰も知らない恋を始めよう
「あ、そう? 僕も付き合うよ。
 何の授業?」

「……中央棟の宗教概論2、だけど……
 いや、でも、ここでお別れ……しませんと……」

「宗教概論か、実は僕も履修したかったけど、時間が被って取れなかったんだよね。
 丁度いいな、受講してみよう。
 一緒に行くよ、ダニエル」

 この耳元でささやくように話すのは、そろそろやめて欲しかった。
 他の人には、フィンの声が聞こえないんだから、こんな近くで小声で話さなくてもいいよね?

 必要以上に近いフィンから上体を反らしながら立つ。


「いやいや、被ってるなら、本来の講義に出席するべきですよ?
 それにですね、確かこういった不可思議な現象が大好物の、奇天烈な衆が集うミステリー研究会なる会が存在すると聞いておりますから、そちらに行かれた方が解決は早いのではないかと!
 故に専門外のわたしとは、ここでお別れ致しましょう! ではでは!」

「待て待て」

 フィンもわたしに合わせて立ち上がり、またもや身を寄せて来て、わたしの腕を掴んだ。
 彼は透明人間なのに、何故かわたしを捕まえることが出来る。
 彼のような類いの存在は、身体をすり抜けて掴めない設定とかなかった? と今になって気付く。


「ひとりでしゃべったら駄目だ、って何度も言ってるよね。
 焦って『ではでは』を奇天烈に連発する君は僕にとっては可愛い人だけど、お隣さん達が不審者を見る目で見てるよ」

 またもや耳元で話すので、思わず耳を押さえて、ついでに隣のテーブルを伺えば。
 男女混合4人グループが何とも言えない目をして、わたしを見ていた。

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