まだ誰も知らない恋を始めよう
 魔法学院の後に予定を変更して、ロジャー・アボットに会いに行かなかった事と。
 黒魔法士を恐れて、君にはもう迷惑は掛けられないと言い出したフィンが何処かへ行ってしまいそうだったので、それを阻止したくて自宅へ付き添って、ご両親にも理解された事も話した。


「だったら、取り敢えずはフィニアスは家にも帰れて、家族にも分かって貰えて、それで良かったじゃないか。
 エル、お前は自分がやれる事はやったよ」

「……」

「黙っているのは、それだけじゃ満足出来ないからか?
 ……お前、親父や俺の助け無しで、外れを捕まえる当てがある、とあの女に言ったんだろ。
 それはあの人か?」

「アリア叔母様なら、話を聞いたら助けてくれる……と思う」


 そうであって欲しい願望を込めたわたしの答えに、兄が人差し指と親指でつまんだ両方の目頭を揉む。
 これは兄がイラついてるサインだ。


「もう10年近く、会ってないのに?
 新年祝いのカードのやり取りしかしてないんだぞ?
 それなのに、こんな時にだけ甘えて、こんなややこしい案件に引っ張り込む?
 どうして、大人しく待てないんだよ。
 お前がベッキーに言った、古代魔術の秘本を解読出来る専門家はアイリーン・シーバスの事なんだろ?
 あいつらには、今は近寄ってくれるな、と俺はお前に頼んだはずだろ」

「……」

 昨夜に続いて、兄からのお説教は、怒声ではなく静かに続く。


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