まだ誰も知らない恋を始めよう
 碌なもんじゃねぇオルくんの、人を舐めた笑いをわたしは思い出す。


「魔法学院創設以来の天才だの何だの持ち上げられて、いい気になってるんだな」

「わたしが見たところ、オルシアナス・ヴィオンって子供は、あのニール・コーリングとは方向性は違うけれど、いけ好かないクソガキで」

 乙女としては絶対に口にしてはいけない『クソ』をわたしが発したのを、兄が生真面目に睨むが、最近連発しているせいで、わたしには抵抗感無く使えるの。


「女の子がクソなんて言葉を……」

 成人済みのわたしに『女の子』はやめてほしいけど。


「でも、ニールよりマシなのは、本人が自覚してる事かな。
 彼は歪んだ正義感は振りかざさない」


 オルくんは自分の性格が悪い事を自覚している。
 そのうえで、わたしに対して意地悪と言うか、対抗心を燃やして、わざと心を読ませた。
 
 けれど、そこに嘘は無い。
 確かに、オルくんはフィンの命が危ないかも、とわたしに警告して、ノートの切れ端まで用意してくれたのだ。

 
< 186 / 289 >

この作品をシェア

pagetop