まだ誰も知らない恋を始めよう
「これ、アリア叔母さんに渡してくれるか」
 
 職員宿舎へ帰る兄から1通の封筒を渡された。

 わたしがケーキとお茶の用意をしている間、兄が自分の部屋に居たのは、手紙を書いていたのだろうか。
 

「あれから、ずっとご無沙汰していて。
 本来なら一緒に行って、俺も頭を下げるべきなんだが、今は休みが取れなくてな。
 よろしくお願い致します、と伝えて」

 


 兄から叔母宛の手紙を受け取り、今夜もわたしはお風呂に入った。
 約9年ぶりに会うアリア叔母様に失礼が無いように、今日も磨き立てる。 
 思い返せば、叔母は匂いに敏感な人だった。


 濡れたわたしの左手薬指には、あの指輪が光っている。

 その存在に気付いていたのに、敢えてなのか、兄はわたしに何も尋ねなかった。


 わたしの、いやマッカーシーの力で、何処までメイトリクスを追えるのかは分からない。

 けれど、絶対に簡単には白旗は揚げない。


 待ってろ、オルシニアス・ヴィオン。

 喰ってやる、と言って瞳を輝かせた君の目の前まで、外れを連れてきてやるから。

< 188 / 289 >

この作品をシェア

pagetop