まだ誰も知らない恋を始めよう
「確かに、私が正攻法ではない裏ルートを使ってトラブルを解決する事案も少なくないが、それには裏とは言え、専門の組織を使い、決してフリーの人間は使わない。
 何故なら、何処にも属さない野良はその時その時で、自分に利がある方へ傾き、裏切りも厭わない者が多いからだ」

 こんな風に静かに説明されると、反論のしようがない。
 俺から見た祖父と父は目的のためなら手段を選ばない人間で、表も裏もそれに応じて使い分けていると思っていた。


「お前が魔法庁に依頼したくない理由は、ダニエル嬢か?」

 いきなり切り込まれて、息を呑む。


「お前達が恋人同士だと私が信じたと思ったか?
 ルディアが納得しそうな理由を上手く持ち出してきた事は褒めてやる。
 だが、彼女にだけお前が見えているのは愛の力ではなくて、マッカーシーの何の力なのか、正直に言え」


 その問いにまともに答えられるはずもなく。
 
    
─ 何の力かなんて、知らないし 

─ 彼女は正真正銘、俺の恋人
 

 何も知らないふりを装うしかなく。
 父には小さく舌打ちをされたが、動揺した姿を見られないだけましだ。


 それ以上は何も言われなかったので、俺も疲れたから寝ると書斎を出たが……


 父が誤魔化そうとする俺を、今回は見逃してくれただけなのは、分かった。

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