まだ誰も知らない恋を始めよう
 着替えと洗面を済ませ、また窓から夕景を眺める。


 今日はシーズンズのシフトには入っていなかったよな。
 大学も休みだし、彼女は何をしていたんだろう。
 俺がお願いしたように、以前のペースを早くも取り戻して、勉強に励んでいるのだろうか。
 昨日は颯爽と帰っていったけど……少しは俺の事を思い出してくれていたら嬉しいんだけどな。


 火曜日の夕食は、スープで煮込んだ野菜と鶏の骨付き肉だよ、と教えてくれた彼女の笑顔を思い出す。
 あの時は当然俺も食べられると楽しみにしていた。

 日曜の中央市場の売り切りで、最後の最後に駆け込んで、更に値切った彼女の勢いを思い出す。
 生き馬の目を抜くの宣言通り、彼女が市場内を早足で移動するのが楽しくて、まるでギャロップだと俺は笑い続けた。



 昨日、別れたばかりなのに、もうダニエルが恋しい。
 スープが食べたくて来たんだと言って、会いに行ったら駄目か、駄目だよな。
 俺から、もう会わないみたいな事、言ったんだし。

 せめて大学が連休じゃなかったら。
 遠目からでも、彼女を眺められたのに……




 ……駄目だ、何してる、お前は生まれ変わると決めたんじゃなかったか。 
 貴重な1日を寝て過ごして、無駄にした。
 グズグズ思い出している暇があるなら、次の一手を考えろ。  
 フリーの魔法士が使えないのなら、父が言うように、組織を使うか。

 

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