まだ誰も知らない恋を始めよう
 常に『自分の以外の誰かがそこに居る』環境は、皆が寝静まった自宅よりもフィンを癒してくれているのかもしれない。
 ……誰にも気付いて貰えない彼の孤独は、想像するしかないけれど。
 

「食事もうちのホテルの厨房に時間を合わせて行けば、朝夕は食いっぱぐれることは無いね。
 最初に困ったのは、風呂をどうするか、で」

「お風呂、毎日必要?」

「そりゃそうだよ。
 俺は単に身体が見えなくなっただけだよ?
 その他は通常運転なんだから、生活してたら身体は汚れるよね。
 毎日、髪と身体は、洗わなきゃ」  

 あー、毎日洗わなきゃ、か……
 うちはお湯が勿体ないから2日に1度しかお風呂に入らないのよ。
 まぁ余計な事だし、言わないけど。

 それにいつの間にか、一人称が『僕』から『俺』になってますよ!
 ちょっと寛ぎ過ぎじゃないですか?


「朝の時間に、チェックアウトした客室に清掃が入る。
 清掃出来る部屋はドアの鍵を空けて、リネンの取り替えやらするからさ。
 で、フロア担当のメイドが掃除を始めたら、そこから1番遠い部屋のシャワーを使って、予備のバスタオルで拭いて、アメニティの剃刀で髭も剃って、お客様が使用したように思わせた。
 あまり贅沢は言えないけど、バスタブにお湯を溜めて浸かれたら、とは思うよ」

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