まだ誰も知らない恋を始めよう
「……」

「服は密かに自宅へ戻って自分の部屋で着替えたけれど、服が何着か消えてるのは、まだ誰にもばれてない。
 ちなみに着ていた方はホテルのランドリーに放り込んでる。
 俺のイニシャルは刺繍されてるけど、ランドリースタッフはそれを見たことも無いし、持ち主不明のまま保管されてるだろうね」

「……」

「そういう苦労を積み重ねて、俺はこの辛い環境を乗り越えようとしてる。
 他にも気になることがあったら、何でも聞いて。
 何でも答えるよ、何故なら、ダニエルは俺の運命共同……」

「大学にはどうやって来たの?」

 申し訳ないが、その先を遮るように質問をする。
 俺の運命共同体云々の言葉は聞きたくないからだ。


「ホテルのハイヤーを予約するお客様が居るからね。
 レセプションのところで張って大学近辺を観光する人に便乗してたけど。
 乗り方も分かったし、来週からはバス通学にしようかな」


 食事にしろ、睡眠にしろ、移動にしろ。
 家業がホテル業なのを最大限に利用しているのは、お見事なんだけど。


「あのね、毎朝自宅へ着替えに戻ってるなら、ご家族には伝えてないの?
 俺は行方不明じゃない、身体が見えないだけだって、何か方法を考えてみた?」


 そうだよ、大学の友達や初対面のわたしなんかより、先ずは家族だろう。
 ペンデルトン家なら、お金もあって余裕がある。
 きっと不可思議な事だって解決出来る伝手もあるはず。
 彼が言う辛い環境なんて、自宅に帰れば直ぐに解決出来る様に思える。


 わたしがそう言えば。
 初対面から今まで、それなりに楽しそうに見せていたフィンが初めて表情を曇らせた。
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