まだ誰も知らない恋を始めよう
「髪、染められたんですね。
 誰かとお約束ですか?」

 よく見ると、ベッキーさんは髪色だけで無く、瞳の色も変えていて、口元にはホクロも付けていて、色気が物凄い。
 月曜日に会った、きりりとした教官姿とは、全くの別人になっている。

 その麗しいお姿に、つい誰かと約束かと聞いてしまい、プライベートに踏み込んでしまったわたしだ。
 けれど、そんなオコチャマのわたしに、気を悪くする風も無く、ベッキーさんは答えてくれた。


「わたし、今夜はベッキーじゃないの。
 貴女の親戚の、そうね、名前はヴィクトリアにするわ。
 だったら、もし『ベッキー』と呼ばれたのを他の人に聞かれても、『ヴィッキー』を聞き間違えられたのでは、と誤魔化せるでしょう。
 わたしが来たのは、貴女方がメイトリクスを特定したら、奴を迅速に捕まえて解術させるよう隷属魔法を掛けてくれ、とザカリーに頼まれたから」

 忙しい奴、と仰っていたから、てっきり男性だと思っていた。
 ベッキーさんがペンデルトン氏を名前で呼んだのは、少し気になったけれど、2人の関係性を尋ねるのは、それこそプライバシーの侵害だ。



「じゃあ、ペンデルトン氏が仰っていた、もう1人は、べ、いやヴィッキーさんだったんですね?」

「聞いて無かったのね、そう、わたしです。
 今日は、貴女とレディ・アリアのマッカーシーの力を間近に見られる事を、名誉に思っています」


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