まだ誰も知らない恋を始めよう
 ベッキーさんと叔母の大人の会話を聞きながら、4人でホテル内を進み庭園に到着した。
 ここからは移動車で向かう。


 それでは後程、私も参りますので、と頭を下げたバーグマンさんに見送られて、移動車は発車した。



「てっきり最後にはオルくんが顔を見せるのかと、思っていました」
 
 到着前なら、少しは話してもいいか、とわたしは後列に座るベッキーさんに振り向いて話し掛けた。


「あぁ、喰うとか言ってましたね。 
 楽して変身魔法が手に入ると思っているんでしょう。
 あいつは何でもない事のように簡単に言ってましたが、『魔力を喰う』のは、そんな生易しいものではないんです。
 倒した相手の魔力を、勝者が自分の体内に取り込む事を『喰う』と言うのですが、取り込んで自分の魔力と馴染ませるのは大変な苦痛を伴います。
 『喰う』のは危険だと、まだ経験の無いあいつには、想像つかないんです」


 大変な苦痛……あんなに楽しそうに話していたのに。
 まだ少年のオルくんが苦しむ姿を想像しただけで、ゾッとした。


「自分より格上の相手の魔力なら、キャパオーバーになり、最悪の場合は狂う可能性もありますから」

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