まだ誰も知らない恋を始めよう
 いくらポンコツだと馬鹿にしていたメイトリクスでも、オルくんはまだ子供だ。
 容量オーバーで、彼を潰す訳にはいかない。


「……まだ、わたしが学院を出たてで、駆け出しの何者でも無かった頃、チャールズ卿と1度だけ組んで、外れを追い掛けた案件がありました。
 まぁ、相手は凶悪な奴で、その時にザカリー・ペンデルトンに、命を助けて貰いました。
 それで、いつか魔法士の助けが必要になれば駆け付けるから呼んでくれ、と恩返しを約束したんですが。
 それから約20年間、何の音沙汰も無く、約束どころか、わたしの事も忘れたのだろうと思っていたのですが、昨夜いきなり自宅に連絡が来まして」

 わたしが気にしてる、と察して、ベッキーさんが説明を続ける。
 気を遣わせた自分が恥ずかしいけれど、かつて1度でも組んだ事があったのなら、ベッキーさんが父を『それなりに付き合いは長い』と仰っていた意味が分かった。

 それと同時に、父とペンデルトン氏が昔知り合っていた事実にも気付いた。
 あの方が何も仰って無かったのは、20年前ならベッキーさんのように有名になった方なら覚えていても、無名の父の事は忘れているのかもしれない。


「では、今夜が、その約束を果たされる夜なのですね」

 叔母の言葉に、ベッキーさんが深く頷いた。

 
< 233 / 289 >

この作品をシェア

pagetop