まだ誰も知らない恋を始めよう

9 悪魔祓いをされた彼

「……母にはエクソシストを呼ばれて……悪魔祓いをされた」 

 フィンは口ごもって、そう言った。
 エクソシストを呼ばれた、って……


「俺がダニエル以外の皆から見えなくなったのは、月曜日の早朝。
 セントラルパークのベンチで目が覚めた俺は、何故そんな場所に居たのか、記憶が無かった。
 財布は盗まれていなかったから、流しのキャブか馬車を掴まえようと手を上げて合図しても、馬は俺に近付くと停まろうとするのに、馭者はそのまま走らせる。
 空車の札を立てているのに、キャブの運転手は通過する。
 乗車拒否されてむしゃくしゃしたまま、目についた食堂でコーヒーを飲もうと立ち寄っても、入ってきた俺を客達は誰も見ないし、目の前を歩いている店員には声を掛けても無視された。
 それでさすがに……おかしいって」


 嫌味ではなく、事実として、言わせて貰えば。
 きっと生まれながらの王子様だったフィンは、人から無視されたことは無かったんだろう。
 彼の身元を知る人達からは、その生まれで。
 生まれを知らない人達からは、その容姿で。
 
 わたしには明るく接してくれたけれど、それは日が経ってるからだ。
 直後はどれ程、驚いて悲しんで、自分の身に起きた理不尽に怒り、嘆いただろう。
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