まだ誰も知らない恋を始めよう
「最初は当たり前に自宅へ戻った。
 朝までの記憶がないから自分が死んだと知らないだけで、魂だけが家を抜け出して、部屋では俺の遺体が横たわっていて、みたいな覚悟もしてた。
 だけど、母は一晩連絡無しで帰宅しなかった俺を、仕方ない子ね、なんて侍女に話していた。
 鏡には自分の顔は映ってたけど、それは俺の目からは見えているだけで。
 母にも侍女にも、鏡に映る俺の姿は見えなくて、話しかけても声が聞こえないみたいで。
 母の身体に触れようとしたら、見えない壁が間にあって、俺はそこから先には手が出せなかった。
 ただドアとか壁とかテーブルとか、そんな物体には触れられるから、叩いて知らせようとしたし、紙に名前とメッセージを書いたし……色々したけど、早々に司祭が呼ばれて」


 何か読めてきた。
 わたしの想像通りだと彼は……
 気付いて、と母親に訴えた音をポルターガイストだと捉えられて、悪魔と間違えられたか。


「司祭の弟子が家中の部屋を回って聖水を掛けまくって、その間に司祭は神を讃えて、悪魔を呪い、俺はすぐ隣に立っているのに壁を指差して、去れ! 去れ!フィニアス・ペンデルトンの名を騙る悪魔め!、と熱演して。
 母からたんまり謝礼と献金を受け取って、ホクホクして帰って行った」

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