まだ誰も知らない恋を始めよう

61 古代魔法は文字通り古いと知る俺

 奴が到着した時には、他の親族達は既に本館に移っていた。
 ホテルのメインダイニングの個室でフルコースのディナーを愉しむ彼等をもてなすのは、すっかり元気になった母だ。


 父と祖父は残り、温室で奴が来るのを待ち構えていた。
 メイトリクス断罪の場を温室に決めたのは、兄だった父だ。

 ベッキーさんとの白黒魔法士同士の戦いを考慮して、家から離れた場所に妹の命を奪った憎い外れを誘いこんだ。
 赤毛のベッキーよ、思いきりやってくれて構わない、と言う事だ。


 温室には応接室の様なマジックミラーは設置されていなくて、その場に居なければ、中の様子は探れなかった。
 奴が捕縛されるまで温室に行けない俺とダニエルとアリアさんの3人の耳に遠話魔法で、中の会話が聞こえるようにして。
 且つ視覚の方は自分の目を通した画像を俺達の脳内に送ります、と凄い事をベッキーさんは軽く言った。

 

 叔母のカレラはこうした集まりには、主賓よりもわざと遅れてくる人だった。
 その場の注目を集めるのが好きで、尤もらしい遅刻の理由を披露したがった。
 流行りのものに目がなくて、とりあえずは飛びつくけれど、長続きをした試しはない。
 彼女にとって1番長く続いたのは執着にも似た初恋で、ようやく結ばれたその相手には今も歪な愛を捧げていて、夫の連れ子にもそれなりの、分かりにくい愛情を傾けていた。

 
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