まだ誰も知らない恋を始めよう
 ……そんな問題有りの、付き合うのが大変な厄介な人で、俺やロジャーとの相性は良くはなかったけど。
 もう、あの人は居ない、と思うと、寂しくて仕方がない。


   ◇◇◇


 遡ること、1時間前。
 ダニエルが推察した『メイトリクスはカレラさんに変身している』に同意したベッキーさんが母以外を集めて、これからの説明を行った。


「相手は古代魔術を操る黒魔法士です。
 真っ当な白魔法士に勝算はありますか?」

 ちょっと聞きづらい事もダニエルはベッキーさんに尋ねていて、俺の方が焦った。
 だが、ベッキーさんは別に気を悪くした感じでもない。

 
「はっきり聞いてくれるのは、却って気持ちがいいですね。
 ですから、わたしもはっきり言います。
 絶対に負けません、必ず勝ちます」


 誰もが知る『赤毛のベッキー』が静かに、でも自信を滲ませて勝利を確約してくれた。


「えぇ、古代魔術の秘本なんて大層に言っても、所詮は廃れてしまった国の古い魔法なんです。
 だからこそ簡単に手に入れられたアイリーン・シーバスもそれを知り、物好きな好事家達も手を出さない不用品をメイトリクスに売りつけた可能性が高い。
 それでも学院から逃亡し、自力では新しい魔法を得られないあいつには、素晴らしい指南書に思えたでしょう」

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