まだ誰も知らない恋を始めよう

62 解術前に愛の告白をされた俺

 もう2度とヨエル・フラウ本人には会えないから。

 メイトリクスは逃げるのをやめて、同じ色を持つマーレイの側で、残りの人生を過ごすと決めたのだ。
 

「ほらほら、早く開けてご覧」

 早く開けてみろ、と催促する祖父からメイトリクスに贈られたプレゼントは、赤く輝くルビーと、それを何重にも重ねた黒真珠が囲むチョーカーだ。

 それは確かにアロン&スピーゲルの逸品だが、祖母の遺したものだ。
 本物の叔母なら知っていて当然なのだが、メイトリクスは自分の為に新しく購入されたものだと、祖父の言葉を信じたようだ。


 見事な輝きを見せる大粒の赤い石を、メイトリクスがうっとりとした目で見つめる。


「あぁ、見て、マーレイ。
 本当に、貴方の瞳の色だわ……なんて素敵なの……」

「そうか、良かったね、カレラ。
 お父様に御礼を言わないと」

 気持ちがこもっていない虚ろな感じで、マーレイがメイトリクスを促した。
 彼は本当に、メイトリクスが変身した叔母を本物だと信じているんだろうか?


「どれ、付けてあげるから、側に来なさい」

 いつまでも見惚れているだけの姿に焦れたのか、祖父がメイトリクスを手招いた。
 それに素直に頷いた奴は、首飾りを着けて貰うため、背中を向けて首を晒した。
 その行為が、自らの破滅を招くとも思わずに。


 相手がまだ父や夫だったなら、用心をして、自分でします、と答えただろう。
 だが相手は老いた祖父だった。
 カレラを溺愛する祖父が、その正体がメイトリクスだと知っても、甘い顔を見せていたのだ。
 奴は祖父を信じ、いや、舐めていた。


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