まだ誰も知らない恋を始めよう
「ほら、早く開けて、それを付けて見せてくれ」


 他の親族達には知られたくないと、温室まで呼び出して贈り物をする祖父を少しは怪しんだのか、メイトリクスの表情が曇るが、それに気付かぬ振りをして祖父が憎い敵に笑ってみせる。


「お前が絶対に喜びそうだと思ってな。
 アロン&スピーゲルの者に見せられて、即購入した。
 マーレイの瞳の色のルビーだ。
 絶対に気に入るさ」

 早くルビーの首飾りを付けさせたい祖父が『絶対』と2度も繰り返したのは怪しい限りだが、有名な宝飾店のアロン&スピーゲルの品であり、マーレイの瞳の色と聞いて、メイトリクスの興味を引いたようだった。
 そう、メイトリクスは赤い色の瞳に弱い。 

 マーレイは赤い瞳をしていた。
 ロジャーも父親と同じ瞳の色が赤だったが、彼の髪色は母親譲りの茶色だったので、父親程メイトリクスの好みではなかった。


 この男がカレラ・アボットに成り替わった理由は、俺の経過観察の為だけじゃない。
 それなら両親でも良かったのに、カレラに変身した決め手は、銀髪に赤い瞳のマーレイ・アボットの妻だから。


 銀髪赤眼。 

 それは奴が憧れてやまないヨエル・フラウの色だった。

 
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