まだ誰も知らない恋を始めよう
 あぁ、そうだろうな、とようやく……
 そうだった、と思い出した。
 フィンとは知り合いでさえ、無かった事を。


 そんなことを思いながら、わたしは彼をぼーっと見ていた。
 自分を、馬鹿かと思いながら。


 これまで何度も大学構内ですれ違ったけれど、フィンは1度もわたしを見たことなど無かったのに。
 こんな状況だったから、彼はわたしの手を握り、笑顔を向けただけ。
 彼とは住んでる世界が違う、と分かっていたはずなのに。


 お金の話を持ち出した自分を恥じるように、フィンはわたしと目を合わさない。
 しかし、庶民に王子様の気遣いは無用だ。


 だから、わたしはフィンが……いや、フィニアスがこれ以上、この話題で気を遣わないように明るく言ってのける。


「そんなの、気にしなくていいのに。
 だけど、あなたみたいな大金持ちには、遠慮した方が失礼に当たるね?
 御礼と言うなら、ものすごい金額を要求しようかな」

「……俺自身が金を持ってる訳じゃないけど……
 ……うん、是非そうして」
 
 
 そうだった、わたし達は元々……

 ダニエル・マッカーシーとフィニアス・ペンデルトンは、知り合いでさえなかった。


 その事実を、改めて思い知らされたような気がした。

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